八重桜が咲くある日、授業中の教室から呼び出され
先生からうちに帰るよう言われた。
お迎えはタクシーと見知らぬ黒いスーツのおじさん。
このおじさん、誰だろう?なんて思いながらタクシーに乗り込む。
「ねぇ、おじさん誰?」あたしは日頃ない早退&タクシーお迎えに
有頂天でそのおじさんに声をかけた。
「おじさんはタクシーの運転手だよ。」
「おじさんじゃなくて、そっちのおじさん。」
「えっ?おじさん以外誰もいないでしょ?」
「え、いるじゃん。黒い服の人」
「・・・」
きっと今なら、気まずい空気が流れていたことに気づくと思う。
でも、あたしは天然系なので気がつかない。
そんなこんなでうちへ。
祖母の部屋へ駆け込むと
朝は寝床からいってらっしゃいと手を振っていた祖母が
力なく横たわっていた。
「おばぁちゃま。」
うっすらと目をあける祖母・・・その目と視線が絡んだ時
祖母はそっと目を空中にやった。同じようにその視線を追う。
すると・・・部屋の四隅に黒い服の男が浮かんでいた・・・
そして、その夕方に祖母は亡くなった。
そして、お通夜。
ふと月明かりに目が覚めると閉めていたはずのカーテンが開かれ
よそいきの着物を着た祖母が黒服の男に手を引かれ歩いていくのが見えた。
あたしは裸足で後を追う
「おばぁちゃま。」
「おばぁちゃんが死んだらいじめられるね。連れていきたいけど・・・」
男が初めて口をきいた。
「なんなら、このコも連れていくか?お前の頼みなら断れない。
もう尽きてるし今も先も変わらんぞ。」
「おばぁちゃまと一緒に行く~」
あたしは祖母の手を取ろうと駆け寄った。
すると、祖母にその手を払われた。
「いや、このコにはこのコの人生がある。今、私の頼みは断れないと言ったね。
じゃ、このコに命を・・・」
そんな言葉を祖母は男に投げかけた・・・
(というか、そんなニュアンス。子供のあたしにはよくわからない会話だった。
だいたい尽きてるってなんだろうってずっと思ってたし・・・。)
そして・・・
あたしは布団の上で目が覚めた。
カーテンは閉まってるし、いとこは隣で寝息をたてていた。
そっと布団を抜け出し、祖母の部屋に向かう。
真新しい箒が布団にのせられたことを除いて
祖母は昨日と同じように静かに横たわっていた。
たった一つ違ったのは、四隅にいた黒い服の男達がいなかったこと。
・・・尽きてると言われたのは、命運というか寿命だったのかも?
いろんなものに守られながら、あたしは生きてます。
ちょっと不幸かもしれないけど・・・ちょっと幸せでもあります(笑)
(実際はもっとあたしと祖母、祖母と黒服の男の間で会話があったんだけど
長々になっちゃうんでちょっと削ってみました。)